「ゲームが上手い」とは何か、真剣に考えたことはありますか?
ゲームをプレイしている人であれば一度は考えたことがあると思います。
そしてプレイしているゲームによってその結論も異なることでしょう。
しかし、いずれのゲームにおいても「ゲームが上手い」状態になるには技術的な上達が必要です。
何度も挑戦し、失敗し、練習し、乗り越えて、徐々にできることを増やしていく。
上達の余地があるゲームだからこそ、継続してプレイしたくなるとも言えるでしょう。
今回、私たちは「プロスピAが上手いとは何か」についての研究を行いました。
プロスピAが上手くなるにはどのような能力が必要なのか、トッププレイヤーはどのような点が優れているのか、を明らかにすることで、競技としてのプロスピAではどのような勝負が繰り広げられているのかを知りたいと考えたからです。
今回、私たちと共同でこの研究に取り組んでいただいたのは、慶応義塾大学環境情報学部の加藤貴昭教授です。加藤教授の専門分野である「眼球運動」から、プロスピAの初心者とトッププレイヤー(上級者)の違いはどこにあるのかを明らかにしていくこととなりました。
なぜ眼球運動なのか、と思う方も多いでしょう。まずはそこからご説明します。
加藤教授によると、目という器官は、人間の無意識の反応が出やすく、特にスポーツにおいては上級者ほど効率的な目の動かし方が見られるため、技術の上達を図るのに最適であるとアドバイスをいただきました。
そして結論から言うと、今回の計測で初心者と上級者の間には、はっきりとした目の使い方の違いがあることがわかりました。
今回の実験でポイントとなったのは「視線の置き方」と「ボールの追い方」です。
まずは「視線の置き方」ですが、バッティングの際、初心者はピッチャーのモーションを見てタイミングを計っていますが、上級者はピッチャーの投球モーションには目もくれず、ストライクゾーンのみを注視しています。これはゲームの性質上、ボールの位置がストライクゾーン付近に表示されるためであり、ピッチャーのモーションを周辺視野(視界の端で動きを捉えている)で確認しながら、あくまで視線はストライクゾーンに向けられています。
実際の野球と異なり、ボール球を打ってしまうとヒットの確率が極端に下がってしまうゲームの仕様上、プロスピAのバッティングのポイントは「ボールの見極め」であり、「ストライクかボールか」「球種は何か」をいち早く判断できるかが重要になります。上級者はこれをストライクゾーンにあらかじめ視線を置いておくことで、いち早く表示されるボールの位置を確認し、その回転から球種を見極めることに集中しています。視線をピッチャーに置いていると、投球後にストライクゾーンに視線を移してボールを探すことになり、視線を動かす距離の長さが、ボールを見極めるまでのタイムロスにつながります。今回の実験で、上級者ほど、このわずかな余分をそぎ落としていることがわかりました。
次に「ボールの追い方」です。加藤教授によると、これはプロスピAに限らず、あらゆるスポーツの上級者に見られる傾向らしいのですが、「予測」ができると視線の動き方が変わってくることがあるといいます。例えば、実際の野球において、ピッチャーがボールを投げると、バッターの目はボールを追いますが、この時、上級者は「ボールの少し先」を見ているらしいのです。これはボールの軌道を予測しているからであり、その予測に基づいてバットを振ることで、遅れることなくボールを捉えることできます。初心者はボールそのものを目で追っており、ボールの軌道をイメージできていないため、適切な位置にバットを出せなかったり、対応が遅れたりしてしまいます。
実は、今回の実験でも似たような傾向が出ており、変化球に対しての視線の動きにおいて、初心者はボールの動きをそのまま目で追っているのに対して、上級者はボールの変化後の位置を瞬時に予測し、真っすぐ視線をボールの着弾点に移動させていました。これによっていち早くカーソルを合わせ、慌てることなくボールが来るのを待ってバッティングできるため、精度が上がっていると考えられます。実際、初心者ではバットに当てるのが精一杯なところを、上級者はホームランを狙うためにボールのやや下を狙う微調整を行う余裕すら生まれています。傍から見て上級者がいとも簡単に打つように見えるのは、やはりこの時間的な余裕があるからなのでしょう。
そして興味深いのは、上級者がこれらの目の使い方を意識しているかというと、ほとんど無意識に視線が動いているという点であり、初心者のグループがこれらを真似したとしても上手くいかないという部分にあります。変化球の着弾点を瞬時に判断できる能力の裏には、変化量の数値でボールの軌道をイメージできるほどに、あらゆる変化球を繰り返し目に焼き付けた練習の積み重ねがあり、それこそが彼らをトッププレイヤーたらしめている一因であるわけです。
これらのボールの見極めがほぼ無意識にできるようになったトッププレイヤーの意識はより高度な駆け引きへと向けられていきます。実験でのインタビューにおいても、打球の方向をコントロールしたり、配球を読んだりといった、狙ってヒットを打つための上級者ならではのテクニックが明らかになりました。視線の移動を最小限まで削り、予測によって着弾点を瞬時に見極めて生まれた、ボールが来るまでのわずかな時間を使って、打球のコントロールを行うための意識的な判断を挟んでいるというのがトッププレイヤーのプレイであり、ボールに当てることに精一杯な初心者ではこれらの判断まで意識を向ける余裕がありません。
今回の計測では、視線の動きから無意識に行われているトッププレイヤーの技術を垣間見ることができました。そして、その技術は日々のプレイの積み重ねによって培われたものであろうことも。「プロスピAが上手い」ということはどういうことか、皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。
実験について
今回の実験は、プロスピA初心者の慶応義塾大学の学生の方々と、昨年と今年行われたプロスピAの大会で上位の成績を収めたトッププレイヤー各9名に協力いただき、計測を行いました。
ゲーム内の打撃練習モードを使用し、打者を西武の外崎選手、投手をソフトバンクの千賀投手、日本ハムの宮西投手という統一の条件で打撃練習を行っていただきながら、プレイヤーの視線を眼鏡型の計測器で測定しました。また、ゲーム内での打撃結果、プレイ後のインタビューなどから視線の計測だけではわからない部分を補完しています。